自治体実務に貢献できる研究を現役職員とともに

理事長 稲継裕昭(早稲田大学、元大阪市職員)

 自治体職員としての長年の実務経験のある研究者が集まり、ますます複雑化する諸課題に直面する自治体やそこで頑張っておられる職員の方々を少しでもお手伝いすることができないか。逆に新しく直面する課題を現場から伝えていただき、それについて解決策を共に模索したり、現場発の政策革新を共有したりできないか。そういった思いでこの学会は設立されました。

 自治体はこれまで様々な課題に挑み、創意工夫によって、住民福祉の向上と活力にあふれる地域の実現に取り組んできました。しかし、厳しい財政状況下で職員数削減が進む一方、業務量の増大、内容の多様化・複雑化により、自治体職員が新しい政策に取り組む余裕がなくなってきています。研修機会も減少し、職員同士が自主的に学ぶ時間も少なくなっています。

 本学会は、このような状況を憂い、研究者会員が多様な研究成果を自治体にフィードバックすることを目指します。研究者会員は、新採時の雑用から一定の政策案作成まで自治体実務を一定年数経験して皮膚感覚を持っています。学界動向を敏感に追い、課題解決手法を学界用語から実務用語に翻訳して自治体に提供できることもあるでしょう。他方、自治体現場では国をリードするような新しい政策展開がなされていることもあり、そこから学ぶことも多くあるでしょう。本学会が、研究者会員と一般会員、団体会員がともに学びあう場を提供できればと思います。

 「住民福祉の増進を図る」(地方自治法1条の2)という自治体のミッションを果たすために、研究者と自治体職員がともに連携・協力し合っていければと強く願います。

*いなつぐ・ひろあき。早稲田大学政治経済学術院教授、公共経営論・地方自治論・行政学・人事行政学専攻、大阪府出身。1983年大阪市入庁、1996年退職し姫路獨協大学助教授、大阪市立大学教授、法学部長等を経て2007年から現職。
 近著に『AIで変わる自治体業務:残る仕事、求められる人材』(ぎょうせい、2018年)、『シビックテック:ICTを使って地域課題を自分たちで解決する』(編著、勁草書房、2018年)、『自治体の会計年度任用職員制度』(学陽書房、2018年)、『東日本大震災大規模調査から読み解く災害対応―自治体の体制・職員の行動』(編著、第一法規、2018年)、“Aftermath: Fukushima and the 3.11 Earthquake”(共編著、Kyoto University Press, 2017)、訳書に『テキストブック政府経営論』(勁草書房、2017年。原著Jan-Erik Lane)ほか。